愛犬が亡くなった。突然のことだった。いいことも悪いこともいつも突然だ。自分が唯一、確信を持って愛していると言える存在だった。人の気持ちに敏感で、この子はすごい徳の高い子だとブリーダーからは言われたらしい。どういうことなのか分からないけど、うなづけるのだ。俺をうなづかせてくれる唯一だ。彼女が生きてくれるなら自分の30年分くらいは与えられると思う。30年分の痛みも迷った末受け入れると思う。全てが例外なく終わることは知っているが、今とは思ってなかった。

突然の電話で緊急病院に運ばれたことを知り、ビールを飲んでいたが慌てて電車に乗って大船に向かった。その最中にまたLINEが来てそういう知らせだった。ふわふわだったのに。彼女と自分は家族内でも相当仲良しだった。成績が悪くても仕事を辞めても彼女はいつでも僕の帰りをめちゃくちゃ喜んでくれた。それは無知故だろうが、そんなことは一緒に生きる上で知らなくていいことだ。人間だけだむちゃくちゃやってるのは。嘘ついてミスって隠して怒って適当してゲロ吐いて。女に抱きつきたくてたまらないなと思いながら、知らせを待っていたんだけどこういうことなんですかね。性欲以外で、人に抱かれたいと思ったのなんて初めてくらいですよ。だとしたら人ってのは孤独に対して脆弱で、愛は反動でしかないんですかね。不安で恋するんですかね。僕だけですかね。

 車中で知らせを聞いてこらえきれず泣いていた。自分はそのまま家に帰ることになって、後に両親が帰ってくる予定。帰宅した瞬間から家全体にフランの空気を含まれていてひたすらに号泣していた。ボールもあってお皿もあって自分の部屋に戻ればそれは当然普段だったらフランが尻尾を振って待っているところだった。空気のグリッチがもうすでに起きている事実をテキストで知っていたのでいわゆる第1の実感でもう無理だった。だいたい今回は事故でfadeやshadeを感じさせる現象なんてほぼ無かったのだ。ひたすらにグリッチを直そうと空を掴んでは爪を立てた。朝も元気でなんなら午後も元気だったのだ。両親がインターフォンを鳴らして、インターフォン越しに動いている犬が見えて嘘だったのかなと0.8パーくらい期待したんですけど、友達の犬だった。

本当に動かなくてもう無理だった。こういう時生存本能のレベルで、意外と、、、みたいのを期待してしまうのだ。目立った外傷もなく普段眠っているフランのまんまに思えた。父親から状況を聞いて苦しすぎた。あとから母親の友達も来て、コミュニケーションに苛立って1人部屋に戻って泣いた。

 お兄ちゃんも帰ってきてやっぱりしっかりしていて泣いた。泣くしかなかった。家族が居なくなってまた泣いた。認識こそすれ理解すらも出来ていないが、涙はずっと止まらなかった。いつかこういう日が来ることは心の片隅にあったが、やっぱりこんな形とは思っていなかった、本当に動かなくて、苦しすぎた。やがてバファリンをコーラで飲んで眠った。

 

 朝起きて、頭の隣に普段いるはずのフランがいなくてまた泣いてしまった。何度も繰り返し眠った。母親の泣き声やそれを慰める父親の声がリビングから聞こえていて、とても起きてすぐそんな渦中に入れる状態じゃなくて。起きては泣いて眠ってを繰り返した。16時ごろ空腹に耐えきれずリビングも少し落ち着きを取り戻している様子だったので、オレンジジュースとウイダーを飲んだ。いつも元気だったはずのフランが整頓したと思しき葬いのための壇に横になっていた。近づけば近づくほど、リアルはリアルの感触を伴って泣いた。母親が餃子を作ってくれて食べていたが、昔の思い出を話すのが苦しすぎて途中で無理になってしまった。コンビニでビールを買って少し飲んだらすぐに気分が悪くなって帰宅した。父親が帰ってきていた。また寝ようと思っていたけれど父親に呼ばれてリビングに。父親の散歩中の事故で、母は父を責めると思っていたからバランスをとろうと誰も悪くないと思おうとしたがそれでもどうしてと思う気持ちは消えなかった。しかし、父親が泣いている姿を初めて見て本当にしょうがなさすぎたのだと風のように思った。

 部屋にフランと2人にしてもらってひたすらに泣いた。ずっと感情は疲れきっていて、体がとても追いついていかない。朝になっても本当に何も変わらない。紅茶を淹れて少し落ち着きを取り戻して、母と話をした。母親は後ろ向きな性格で、話を聞いているだけで何度も泣いていたが、状況を整理して自分らに出来そうなことを提案した。本当は何も出来そうにない。事故後のフランに会えなかったのが本当につらい。雷で怖がるような犬でいつもそばにいた。朝のいつもの出発のいつものフランが最後になってしまい、彼女のそばにいることができなかった。何をよぎったのか、思うことがあったのかすらも分からないままになってしまった。証明されていないものを信じることしかできない。家は一瞬で息苦しくなった。あらゆるところに見たくない事実が潜んでいる。

 

全く憎まず、ただひたすらに愛していた存在が突然いなくなってしまった。本当につらい。最期にも会えなかった。朝にいつも通りお別れしたまんま、宙ぶらりんだ。さよならもちゃんと言えなかった。どんなことを考えていたかもわからない。今も思い返しながら涙が止まらない。泣きすぎて頭は痛いし、体は疲れきってる。月曜日から仕事に行ける気がしない。本当につらい。自分にとって本当に大事な存在だった。天国があるのかどうかもわからないけれどそれに頼ることしかできない。どうか安らかであることを願わずにいられない。もうこんな思いはしたくない。苦しすぎる。もう一度会えるなら本当に何もいらない。本当にそのこと以外全てどうでもいい。とにかくつらい。